「嫌われた監督」を読んだ
落合博満が中日監督に就任してからチームをどのように運営したか、
12人の選手・球団関係者と落合の関係性を通じて描かれている。
好き嫌いではなくバッティングの技術向上を目的として落合とつながる福留孝介。
「この世界、好きとか嫌いを持ち込んだら、損するだけだよ」
(中略)
「監督はキャンプから他の誰よりも俺のバッティングを見てきた人だから、どこが違うのか、何がくるっているのか一番わかるんだ。だから訊く。今日はどうですか?って」
かつてはキャンプ後にいつ自分がクビになるか不安に襲われていた小林正人。
エースとしては活躍できないでいた小林は、投手コーチの森から「腕を下げてみないか?」とサイドスローへの転向を打診される。
希少性を武器とする左のワンポイントになるということは、この先、舞台の片隅で、脇役として生きていくということだ。
左のサイドスローへと転向を決意するも、ワンポイントリリーバーとして出場した結果、左の強打者たちのオーラに圧倒されフォアボールで歩かせることもあった。
そんな時、落合の「相手はお前を嫌がっている」というつぶやきにハッとする。試合中にバッターを観察すると、130キロにも満たないボールに確かに顔をゆがませているのが見えてくる。
それから小林は、自分のことをトランプカードの「2」であるとイメージするようになった。「2」というカードは平場での序列は低いが、ある特定のゲームにおいてエースやキングに勝つことが出来る。
そして、左バッターの孤高の天才・広島の前田智徳に代打が送られる日が来た。小林は自分だけの居場所を作ったのだ。
他にも、多数のエピソードがあるが全てに共通することは
- 目標をチームの勝利/優勝と定義する。風呂敷を広げない。
- 勝つために必要な選手を登用する。基準は能力であり、好き嫌い・過去の実績での判断はしない。
- 自身の眼で判断する。
- 監督・選手とも自身の役割を果たすことに努力をする必要がある。
という点だ。
この本は、落合が監督時代にいかに中日ドラゴンズを率いてきたか、のエピソードが描かれている。
同時に、エキスパート集団を統率するリーダーが成果を上げるための行動や考え方のユースケースとして読めるとおもう。
敵も多数作る。多くの人から「嫌われる」。そうした落合流のマネジメントがどこでも結果を残すとは限らない。調和や人情を大切に、円滑に物事を進めることが重要な場面・集団は存在する(こちらが多数派?)。
しかし、突出したスーパースターや一芸に秀でてその分野では他の追随を許さない人材を育てるには、各人材が考え、努力することはもちろん、能力を伸ばすための適切な助言、能力があればそれを活かせる環境を与えること、というのが大事だ、ということを感じた。
多くの仕事が機械やAIで代替されると予見される今、多くの企業が「多数の均質な労働者」だけではなく、「尖った人材」を求めている。
野球の話としてはもちろん、尖った人材を育成する事例として、興味深く読める一冊だ。
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タイトル 嫌われた監督
著者 鈴木忠平
出版社 文芸春秋